2017年12月18日 更新

【京都下鴨の隠れた名所】近代京都の歴史に触れられる名建築・重要文化財「旧三井家下鴨別邸」

知る人ぞ知る京都の穴場スポット、2016年に一般公開が始まった旧三井家下鴨別邸。今回はマネージャーの出口さんによる詳しい解説をしていただきました!

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世界遺産「下鴨神社(賀茂御祖神社)」のすぐ南に位置し、多くの観光客が利用する京阪電車「出町柳(でまちやなぎ)」駅から徒歩5分という場所にありながら、これまでほとんど知られることなくひっそりと佇んでいた「旧三井家下鴨別邸」。

それもそのはず。実はこの旧三井家下鴨別邸は、昨年(2016年)10月に一般公開が開始されたばかり! 観光客はもちろん、京都市民ですらその存在を知る人が少ない隠れた観光名所として、ディープな京都ファンの間でジワジワと人気を高めています。
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世界遺産巡りの京都旅行もいいけれど、「もっとディープな京都を楽しみたい!」「人混みにもまれずにフォトジェニックな京都を楽しみたい」そんな方にぜひ訪れていただきたいこの京都観光の穴場スポット。今回は、学生時代から京都に10年暮らし、京都旅行に関する記事も多く執筆している筆者が旧三井家下鴨別邸の魅力やその楽しみ方をご紹介します!

【歴史】財閥の別邸から、家庭裁判所長官宿舎へ

旧三井家下鴨別邸は、その名の通り、現在の三井グループの基礎を築いた旧三井家の共有財産として建築された建物。まずは、その歴史をご紹介します。

下鴨別邸は、当時の三井家11家共有の別邸として、三井北家(総領家)第10代の三井八郎右衛門高棟(たかみね)によって、先祖の霊を祀っている「顕名霊社(あきなれいしゃ)」へ一族が参拝した時の休憩所として建築されたそうです。休憩所にこんな立派な建物とは、さすがは豪商三井家!

建築後から、昨年の一般公開に至るまでの経緯をまとめてありますので、ぜひ観光の参考にどうぞ! 戦後は、京都家庭裁判所の所長官舎として使われていたのも興味深いですね。

旧三井家下鴨別邸の年譜
和暦 西暦 できごと
明治13年 1880年 三井家,木屋町別邸建築
明治42年 1909年 三井家が信仰する京都太秦の「木嶋神社」内の
「顕名霊社(あきなれいしゃ)」が下鴨に移される
大正14年 1925年 木屋町別邸を主屋として下鴨に移築。
玄関棟を建築
※茶室の建築年代は不明 移築前からあったとされる
昭和24年 1949年 戦後の財閥解体を経て、国に譲渡される
昭和26年 1951年 京都家庭裁判所所長官舎としての使用が開始される
平成19年 2007年 所長官舎としての使用を終了
平成23年 2011年 重要文化財(建造物)に指定される
平成28年 2016年 改修を経て10月より、一般公開を開始

さて、旧三井家下鴨別邸は一見すると一棟の大きな建物に見ますが、実は「主屋」「玄関棟」「茶室」の3棟から成っています。

▲左より玄関棟、主屋、茶室

▲左より玄関棟、主屋、茶室

それぞれに建てられた年代が異なり、主屋は上の表でもお分かりの通り、木屋町から移築されたものなんですよ。 こんな大きな建物が移築されてきたなんてびっくりですね。

レトロなガラス張りの座敷から四季折々の景色を楽しんで

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さて。それでは、いよいよ建物の中へ入ってみましょう。

今回は、旧三井家下鴨別邸のマネージャーとして、お客様対応や広報、事務など別邸の運営管理を幅広く担当されてる出口正弘さんに案内していただきました。
出口: ようこそおいでくださいました! まずは玄関棟で、下鴨別邸が建てられた経緯や、 三井家の歴史についての解説をお聞きください。

▲玄関棟ではガイドさんが詳しいお話を聞かせてくれます

▲玄関棟ではガイドさんが詳しいお話を聞かせてくれます

——玄関棟といっても随分立派ですね~。このお部屋でお客様をお迎えしたのでしょうね。

出口: そうですね、恐らくここに椅子が並んでいたものと思われます。この窓の高さが、椅子に座ったときに庭が見渡せるようにできていることから、当時既に椅子の生活をしていたと考えられているんですよ。

——いきなり聞きますが、この下鴨別邸の一番の見どころはどこでしょう?

出口: やはり、主屋からの眺めでしょうね。1階の座敷は庭を臨む南側がほぼ全てガラス窓になっていて、非常に開放的な造りになっているんです。


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——わ~、これは素敵ですね! 歴史あるお寺では戸が障子ですが、ガラス張りになっているところが近代建築らしいですね!

出口: ここではお茶も楽しんでいただけるんですよ。(ドリンクメニューは別料金)


——(お茶を飲みながら)お庭を眺めながらお茶をいただくって最高ですね~。着物を着たらさらに気分が盛り上がりそう!

出口: 通常、主屋は1階のみの公開ですが、期間限定で2階、3階も特別に公開されることがあります。 下鴨別邸の特徴とも言える3階の望楼からは、東山の眺望を楽しむことができます。今回は特別に2階、3階も案内させていただきました。

▲2階のお部屋 普段は貸室として会議等に使える

▲2階のお部屋 普段は貸室として会議等に使える

——2階は普段は使われていないのですか?

出口: 特別公開時以外は貸室になっています。今は文化教室や邦楽などの演奏会、そして会議などにも使われることが多いのですが、1階とはまた異なるお庭の様子が見られて、好評をいただいています。

——こんなきれいな場所で会議なんて、すごい贅沢。京都ならではですね!

▲2階からの庭の眺め

▲2階からの庭の眺め

出口: ちょっとここから、下の池を見てみてください。池の形がひょうたん型になっているでしょう?


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——本当だ! これは何か意味があるんですか?

出口: ひょうたんは「富と繁栄の象徴」で、豪商三井ならではの形と言えるんです。


——なるほど~。確かにお寺などでは見たことのない形です。そういった小さな秘密がいろいろ隠されているのも面白いですね。

出口: 3階は残念ながら撮影が禁止されていますが、望楼からはお庭だけでなく京都五山送り火の大文字山など近隣の山々が見渡せ、高い建物がなかった当時には随分と贅沢な眺めだっただろうと当時の生活に思いを馳せることができます。機会があれば、ぜひ特別公開中に訪問してみてくださいね。


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—これは、随分立派な絵ですね。

出口: 原在正の筆による『孔雀牡丹図』の杉戸絵です。当時は普通の襖だったようですが、一般公開のための改装の際に見つかり、入れ替えられたものです。

1階にはほかにも、三井の歴史に関する資料等も展示されています。朝の連続ドラマ『あさが来た』の主人公「あさ」のモデルとなった、広岡浅子さん(小石川三井家六代当主・三井高益の四女)の手紙のレプリカ等もありますよ。


——そういえば、他にお茶室もあるんですよね。

出口: はい。茶室も普段は非公開ですが、貸室として利用できますよ。こちらもご案内しますね。


▲茶室

▲茶室

——これは素敵……! 丸窓からの眺めは、お庭の様子を一層美しく見せてくれますね。

三井家の思想につながる、簡素 & こだわりに満ちたしつらえにも注目

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——出口さんからご覧になって、下鴨別邸の魅力はどんなところにあると思いますか?

出口: そうですね、個人的には、三井家の思想が随所に現れているところが面白いと思います。見学される際には、ぜひ家屋の細かい点にも注目していただきたいですね。

豪商三井の別邸となると、どんな豪華な建物かと思う方もいるかもしれませんが、意外なほど簡素でしょう?


——確かに。派手な装飾はほとんど見られませんね。

出口: ところが、実は建具やそれらの製法に関しては細かなこだわりが見られるんですよ。当時の三井家の商いにも通じる思想が感じられるのが興味深いところです。


——例えばどんなところでしょう?

出口: まずは、1階の座敷にふんだんに使われているガラスですね。


▲1階の座敷の窓には、今でも大正ガラスが使われている

▲1階の座敷の窓には、今でも大正ガラスが使われている

出口: 室内はごく簡素に作られている反面、当時はまだ一般家庭には普及していなかったガラスを全面に取り入れ、四季折々の庭園を楽しめる開放的なつくりになっています。


——この座敷の作りは、とても魅力的ですよね! ところで、この窓のガラスは、当時のものがそのまま残されているんですね。

出口: そうです。通称「大正ガラス」と呼ばれる手作りのガラスで、微妙な歪みが優しい雰囲気を生み出す、現在では替えが効かない貴重なガラス戸なんですよ。


——割ってしまったら大変。見学の時には気をつけないといけませんね!

出口: 細かいところですが、建築や建材にもこだわりがあります。ちょっとここを見てください。


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——障子の桟(さん:骨組みのこと)ですか?

出口: これね、よく見ると、全面にわたって「上下上下」「下上下上」と交互に籠を編むときのように編み込まれているでしょう? これは「地獄組み」と呼ばれる高度な技術で、今ではできる職人さんがほとんどいないんですが、経年による狂いが生じにくいんです。華美な装飾は避けながらも、建材や建具といった基本にかかわる部分には決して手を抜くことなく仕上がっています。


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——へえ~。そういう点も三井家の考え方に基づいているんですね。

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出口: ちなみに、ふすまの引き手は、当時両替商も営んでいたため「分銅」の形なんですよ。

——本当だ! 面白いですね。

▲洗面所 水回りには水に強い松材が使われている

▲洗面所 水回りには水に強い松材が使われている

▲檜のお風呂

▲檜のお風呂

出口: 生活空間も、ゆっくり見て回ると当時の生活が感じられます。よく見ると、水まわりなども目的に合わせて良質の木材がふんだんに使われています。洗面所には、水に強い松材が使われているんだとか。


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出口: お手洗いには消臭効果のあるクスノキが使われているそう。便器には、当時日本陶器(現ノリタケカンパニーリミテド)のライバル会社であった「名古屋製陶所」のものが使用されており、側面にはその刻印が確認できます。便座に使われている木材も、非常に立派なもので、驚かされました。

「旧三井家下鴨別邸」の楽しみ方

最後に、旧三井下鴨別邸を知り尽くしている出口さんに、おすすめの楽しみ方をお聞きしました。

出口: やはり別邸ではお庭の四季折々の美しさを感じながら、ゆっくりとした時間を過ごしていただきたいですね。特に女性には、お座敷でドリンクを片手にお喋りを楽しむのが人気です。

―今日私も体験させていただきましたが、本当に素敵な時間の過ごし方ですよね。

出口: はい。それから、期間限定の特別公開のほかにも、伝統芸能鑑賞やお月見など、季節に合わせて様々なイベントが開催されています。ぜひ参加していただいて、いつもとは違う別邸の様子を楽しんでいただければと思います。

―わ~、それはいいですね!私もぜひ参加したいです。今日は本当にありがとうございました。

出口: そうそう。せっかく美しい場所に来たからには、素敵な写真をSNSに投稿したいという方も多いのではないでしょうか? 出口さんおすすめの撮影スポットは、2か所。どちらも、お庭に出て建物全体を狙うスポットです。

ひとつ目は、建物に向かって池の左横くらいに立ち、主屋をメインに建物を写すパターン。横長写真の場合でしたら玄関棟も画面に入れることができ、建物全体の美しさをカメラにおさめることができます。


▲建物を斜めから撮ると立体感が出て迫力のある写真に

▲建物を斜めから撮ると立体感が出て迫力のある写真に

出口: そしてもう一か所は、池を挟んで建物を正面から写すパターン。こちらは池に建物が映り、よりフォトジェニックですね。


▲建物と池の対比が美しい季節感の溢れる写真が撮れます

▲建物と池の対比が美しい季節感の溢れる写真が撮れます

出口: また、1階のお座敷も、お客様には人気の撮影スポットだそうですよ! 着物好きの方でしたら、大正ロマン風の着物を着て撮影されると素敵な写真が撮れそうです。


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ぜひ皆さんもフォトジェニックな写真をSNSに投稿してみてくださいね。
その際は、ハッシュタグ「#旧三井家下鴨別邸」を付けるのを忘れずに!

さいごに

明治大正時代のレトロ浪漫な世界に浸るもよし、豪商の思想に触れるもよし、また建築様式を学ぶも良し。様々な角度から楽しめる京都の新しい名所「旧三井家下鴨別邸」。有名になりすぎないうちに、皆さんもぜひ訪れてみてくださいね。

<重要文化財 旧三井家下鴨別邸>

住所:京都市左京区下鴨宮河町58番地2
アクセス:
【交通】市バス1・37・205系統「葵橋西詰」下車、徒歩約5分
市バス1・3・4・17・201・203・102系統「出町柳駅前」下車、徒歩約5分
京阪電車・叡山電鉄「出町柳」駅下車、徒歩約5分

開館時間:9~17時(閉館)16時30分(受付終了)
休館日:毎週水曜日および12/29~12/31 ※水曜が祝休日の場合はその翌日
電話番号:075-366-4321
見学料: 
【個人】大人410円/中高生300円/小学生200円
【団体料金(20名以上)】大人360円/中高生270円/小学生180円

その他:特別公開時には、別途見学料が必要
公式HP: https://www.kyokanko.or.jp/mitsuike/

ライター

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mica
関西中心に活動する、美容ブロガー兼Webライター。主に京都と滋賀の美しい風景やおいしい食事などについての記事を執筆中。
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