2020年8月28日 更新

京都を見守ってきた老舗喫茶「珈琲店 六曜社」、3代目の思い

入れ替わりの激しい、京都河原町。長く京都に住んでいればいるほど、街の風景の変化を寂しく感じます。が、そんな中、ずっと変わらずに在り続けてくれるお店が「珈琲店 六曜社」。創業者の祖父、いち早く豆の自家焙煎を始めた父の姿を見ながら育った自身の喫茶との関わり、今後の「六曜社」について、三代目店主、奥野薫平さんにお話を伺いました。

両親に連れられて、休みのたびに巡った喫茶店

 (188428)

心からくつろげる時間を過ごせるお気に入りの場所がある。ストレス社会を生きるにおいて、そういう時間と空間を持つことはとても大事なこと。京都に住む人、京都を訪れる人にとって、『六曜社』はまさにそういう場所ではないでしょうか。

 (188456)

創業は1950年。いまは三代目の奥野薫平さんが、父・奥野修さんとともに場所を分担しながら(父は地下店、薫平さんは1階)店を守っています。
六曜社の三代目 奥野薫平さん

六曜社の三代目 奥野薫平さん

今回は、六曜社の三代目・奥野薫平さんにご自身の生い立ちとともに六曜社への思いをお伺いしました。

「小さい頃、忙しかった両親の楽しみは休みの日の喫茶店巡りで、いろんなところに出かけましたね。一番多かったのは神戸。神戸といえば「にしむら珈琲店」や「神戸エビアンコーヒー」、京都なら北野天満宮の「天神さん(天神市)」の帰りに「静香」に寄ってアイスクリームを食べるのが恒例行事でした」。
北野天満宮の“市”の記憶とともにある「静香」

北野天満宮の“市”の記憶とともにある「静香」

もっと遊べる場所に連れていってほしいと思いつつも、喫茶店巡りは、薫平さんにとっても楽しい時間だったそうです。

人生の転機となった出会い、「前田珈琲」社長の名采配

成長した薫平さん、自分で進路を決める年齢になります。

「もともと進学に興味がなくて、高校を卒業したら、音楽の世界に進もうと思っていたのですが、実際はプータローですよね。周りが新生活をスタートさせてキラキラしているときに自分は親のスネをかじって暮らしている。それがすごく嫌で、せめてアルバイトでもしようと。バイト先に外食産業、やはりコーヒーを出す店がいいなと思ったのは幼少時代の体験があったからでしょうね。何カ月かの間、ただ歩き回りながら働けそうなお店を探してました」
烏丸蛸薬師にある「前田珈琲 本店」

烏丸蛸薬師にある「前田珈琲 本店」

そんな散歩中にたまたま見つけたのが「前田珈琲店」のバイト募集。ちょうど明倫店がオープンしたばかりで、前田珈琲がもっとも勢いに乗っている時期のことでした。面接をしてくれたのは社長に就任したばかりの二代目。この社長が薫平さんの履歴書をみて、連絡先欄の「奥野 修」の文字に目を止めたのが、薫平さんの人生を変えるターニングポイント。「この名前はもしかして?」と薫平さんの出自に気づき、「六曜社の跡取り息子が来たからには、しっかりと育ててやらないといけない」との思いから、父親である会長に薫平さんをつけます。
 (188457)

「その時は、店を継ぐとか、本当に何も思ってなかったんですよ。当人は。六曜社のこともコーヒーが飲める街の喫茶店のひとつくらいにしか思っていなくて。そんな状態で、一から事業をスタートさせた会長さんの下で学ばせてもらった。根掘り葉ほり質問し、知識が増えていくうちに意識が変わりりました。

 前田珈琲店と六曜社の共通点はどちらも家族経営というところなんですよね。家にいる間は気づきませんでしたが、会長と社長の姿を見るにつけ、家族で店を守っていくっていいな、六曜社は、もし父がいなくなったらどうなるんだろう?という気持ちが唐突に湧いてきました。」

『六曜社』の三代目店主となるまでの道のり

「前田珈琲店」に7年半ほど在籍した薫平さん、卒業して自分の店を始めます。そのきっかけとなったのは祖父の死。このとき初めて父親に対して、将来的に六曜社の跡を継ぎたいとの思いを打ち明けます。その返事は「いらない」の一言だったそう。父・修さんとしては、店の周り(河原町エリア)が急速に発展していくなかで古い喫茶店が存続していけるのかということに危機感を抱いていたそう。
現在の「caféペチカ」店内。喫茶 六花、喫茶feカフ...

現在の「caféペチカ」店内。喫茶 六花、喫茶feカフェっさ時代の面影を残す

学んだことをアウトプットしつつ、独自の色を出したい気持ちは消えず、自分の店を持つことを決意します。

大人になってからもライフワークとして喫茶店巡りを続けていた薫平さん。お気に入りの喫茶店のひとつ「喫茶 六花」が移転のため、元ある場所を居抜きのまま使ってくれる人を探しているという好機に巡り会い、この場所で「喫茶feカフェっさ」をオープンさせます。自らの店をやる楽しさとしんどさに充実した日々を過ごしている最中に父が検査で引っかかり入院・手術という事件が。ついに薫平さんが六曜社のカウンターに立つ日がやってきます。

古きよき『六曜社』の喫茶文化とセルフカフェの台頭

 (188484)

「六曜社」に戻ってからの数年が一番しんどかったという薫平さん。そこには「六曜社」が守ってきた厳格なルールがありました。六曜社のスタッフはアルバイトからはじめて、そのまま10年、20年と長く働いている人もいらっしゃるそう。そんな喫茶店はいまの時代にとても稀有な存在だと思います。
 (188502)

その頃感じていたことを振り返り、思いを語ってくれました。

「長年贔屓にしてくれているお客さんが求める“六曜社のイメージ”を崩したくはないけれども、いまの時代の若者たちや新しいお客さんにとっても居心地のよい場所をつくりたい。その頃、ちょうどセルフ式のカフェが出始めて、自分だけの時間を自由の過ごしたいと思う人たちのニーズと、喫茶店というひとつの箱をみんなで共有する「六曜社」のスタイルが、合わなくなってきていると感じていました。」
 (188503)

「六曜社で働いている人間がずっと大事にしているものはなにか? お客さんのニーズは何か? いろんな喫茶店を見てきたこと、前田珈琲店で働いたこと、自分で店を立ち上げたことでさまざまな角度から客観的な視点で見て、考えました。六曜社としての矜持は守りつつ、目には見えないところで少しずつ新しい風を通しながら、新しいお客さんにもくつろいでもらえる空間を作っていきたいと思っています。」

コロナ禍においての『六曜社』の在り方

 (188505)

70年間、河原町三条に店を構え、町を見守ってきた『六曜社』にとっても、今回のコロナが及ぼした影響は大きかったのでは?全世界がコロナ禍にみまわれた近況についても伺いました。


「ありがたいことにコロナがあっても、常連さんはやってきてくれたんですよ。嬉しかったですね。毎朝、この席にはあの人が座っているという見慣れた風景があって、店を閉めてしまうとその人の日常がなくなってしまう。だから定休日以外は一度も店を閉めなかったというのもあります。」
 (188508)

「日常を奪わないという意味では、感染からお客さんやスタッフを守るのも大事なこと。空調管理やソーシャルディスタンスの保持、消毒などの対策をきっちりとして、お客さんにも協力してもらって、営業時間も変えずにいた。『六曜社はずっと居場所を作っていてくれた』というイメージがあるから、自粛していた人たちが戻ってきてくれるのも早かったような気がします。」

『六曜社』の自家焙煎

 (188553)

『六曜社』は、自家焙煎珈琲を喫茶に取り入れたハシリのお店。いまでは街中だけでなく郊外のお店でも自家焙煎をうたう店が増えていますが、『六曜社』の奥野修さんが自家焙煎を始めたのは昭和50年代。

その頃と同じ、生家にある3kgの焙煎釜で今も少しずつ丁寧に焙煎をされています。薫平さん曰く、3kgが焙煎する豆に目が行き届き、豆に合わせた火の通しかたを調整しやすいそう。

父・修さんは産地の違ういろいろな豆を、それぞれの個性に合わせて焙煎。一方、薫平さんが1Fのカフェで提供するブレンドは1種類。中年のおじさんやおばさんが持つ“昔ながらの喫茶店の珈琲の味”のイメージを大切に、“六曜社の珈琲といえば、この味”と、記憶に残る唯一の味を出し続けているのです。

家でコーヒーを楽しむためのネルドリッパー「スピール」

 (188554)

自身が担当する1Fの珈琲のブレンドは1種類のみですが、最近、ある企業とコラボをして“​ネルドリップのためのコーヒー豆”を焙煎&ブレンドされています。ある企業というのが、岐阜県に窯を持ち、陶磁器の製造・販売する​「suzugama」さん。

「suzugama」が提案する、日々の暮らしの中で、心を落ち着かせる“自分だけの時間" の過ごし方として提案しているのが、珈琲のドリップセット・soupir [スピール] です。
 (189520)

soupir [スピール] は、カップ+ドリッパー+受皿(用途によっては蓋)がひとつにコンパクトにまとまったセット。

マグカップ1つ置く場所のスペースに収納できるコンパクトさ、蓋を皿代わりにしてドリップしたあとのドリッパー&の一時置きにできる便利さが魅力です。
 (189521)

soupir [スピール] にセットするフィルターは、半世紀​愛されるネルドリップ専用のフィルター生地をつくるmuluta(丸太衣料 株式会社)のもの。ネルフィルターというと、よく目にするものは持ち手がついていますが、こちらはドリッパーに被せるタイプなので布のみ。洗うのも簡単です。

ネルは手入れが難しいイメージがありますが、洗って濡れたまま密封袋に入れて、冷蔵庫で保存するだけ。余分な雑味が抜けたふっくらと丸い旨味のあるコーヒーを毎朝飲むことができます。
 (188555)

薫平さんは、こちらのsoupir [スピール] のハンドドリップに合わせて、おうちコーヒー初心者でも馴染みやすく、珈琲好きにも納得の豆のブレンドしました。
 (188556)

おうちならsoupir [スピール] のカップでそのまま飲むのですが、今回は二人で味わうためカップに。かなり濃く淹れてもらったので、最初は苦味にうわっとなりますが、二口めにはあら不思議。最初の苦味はなくなり、珈琲の深みとまろやかさなコクだけがすぅっと入ってきます。そして、後口のキレもすっきり。

普段、紙のフィルターで淹れているのですが、ふくよかさが違う気がします(豆のせい?)。オフィスの机に置いていても絵になるし、プレゼントにしても喜ばれそう。コラボしたsoupir [スピール] ブレンドは販売が終了していますが、『六曜社』では、豆だけの販売もされています。

3kg焙煎釜で丁寧に焙煎された豆で淹れるコーヒーの味をおうちでも味わってみるのもいいですね。

詳細情報

店舗名:六曜社 (1Fと地下)
住所:京都市中京区河原町三条下ル大黒町40
電話番号:075-241-3026
営業時間:1階 8:30~23:00  
     地下 喫茶タイム12:00~18:00 / バータイム18:00~23:00
定休日:水曜日
関連ページ:http://rokuyosha-coffee.com/
44 件

この記事のキーワード

この記事のキュレーター

こにこに こにこに